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大阪地方裁判所 昭和54年(ヨ)994号 決定

1 申請人株式会社ナカ技術研究所が次の特許権を有し、申請人ナカ工業株式会社が右特許権につき専用実施権を有していることは当事者間に争いがない。

発明の名称 天井点検口

出願   昭和三九年九月一〇日(特願昭三九―五一〇四〇)

出願公告 昭和四六年一月二五日(特公昭四六―三〇二九)

訂正公報 昭和四八年七月一三日発行

登録   昭和四八年二月五日(特許第六七六一一六号)

特許請求の範囲

「1枠の下端部が内側に突出した外枠に、外枠の下端縁と内枠の下端縁が近接して揃うように内枠を嵌入し、外枠及び内枠の一側方に偏し且つ枠内の下端縁より上方に設けられた軸体によつて、内枠を回動自在に枢着してなる天井点検口。」

(2項、3項は省略)

2 被申請人が現に業として別紙物件目録(〔編註〕省略)記載の天井点検口(イ号物件)を製造販売していることも当事者間に争いがない(ただし、被申請人は右目録中(二)(ロ)の「3m/m」とあるのは「2m/m」が正しいといい、同(三)の作動説明中、内枠の回転に関する部分の一部についても必らずしも申請人らの主張に同調しているわけではない。)。

3 申請人らは、イ号物件は前記特許発明(1項のクレーム。以下これを単に本件特許発明という)の技術的範囲に属する旨主張するので検討する。

一 まず、疎明によると、本件特許出願は公告決定謄本送達後になされた補正も含め、前後六回の補正を経て登録されたものであることが一応認められる。そこで、被申請人は専ら右のような出願経過に基き、いわゆる実質変更、クレーム制限解釈の主張をしている。しかし、その主張するところは、出願経過を羅列してはいるが、具体的な主張自体は必らずしも明確でない点や、出願人の単なる実施例の説明を偏重しこれをよりどころとする点がある等のことが見受けられる。

したがつて、ここでは被申請人の前記のような出願経過等に関する主張の当否判断をすべて省略することとし(これらのなかには本件特許発明の技術的範囲を確定するためには、論理的には、先決事項も存するわけではあるが)、まず申請人らの主張にそい、最終の公報の記載にのみ基いて検討する。

二 そこで、ここではまず本件特許発明にいう「軸体」の意義または内枠回動機構の技術思想を検討し、これとイ号物件の構成との対比をこころみる。

(1) 申請人らは、この点につき、本件特許発明はあたかも機構学上の回動機構一般をその技術的範囲としているかのように主張しているが、右の見解は、本件特許発明が数多公知の回動機構(<1>回転軸と軸受とを組合わせたもの、<2>ナイフエツジと座とを組合わせたもの、<3>ピボツト軸とピボツト軸受とを組合わせたもの等)が存する中で、ほかでもない「軸体によつて、内枠を……枢着」するとの構成をクレームしていることに照らし、本件特許発明における回動機構の技術思想の把握の仕方としては広きに失すると考える。

右クレームは「回転軸と軸受とに該当する部材があつて、前者が終始後者に同心に係合支承されながら、互いに自由に回転することが保障されているような回転機構」を構成要件としたものと解すべきである。ただし、右にいう回転軸は被申請人主張のように断面丸棒体に限る合理的理由はないのであつて、その外周面の一部を有する半パイプ状中空の軸でもよく、また軸受けも同様のものでもよいと考える(別紙回動機構説明図の(一)参照)。

そこで、右見解によりイ号物件の内枠開閉機構をみるに、当事者間に争いない別紙物件目録によると、イ号物件の外枠の巻込部5と内枠の半円筒体10とが一見前記但書で述べた回転軸と軸受に該当するかのように思われる。しかし、内枠開閉時におけるこれら両者の相対的な運動関係を詳しくみてみると、それらは内枠の開閉開始時点から終了までの間常に係合しているわけではない。すなわち、内枠の回動は軸体が軸受に終始同心に係合支承されている機構によつて行われているものとはとうてい解し難い。

いまこれを具体的に説明すると、イ号物件においては、別紙回動機構説明図の(二)でその概略図を示したとおり、開蓋時の回動の第一段階では外枠の立上り片巻込部5と内枠の半円筒体10とは係合しないのはもちろん、接触すらせず、内枠のリブ9が巻込部5上をスライドするだけである。第二段階では巻込部5と半円筒体10とは接触するが、両者の各円弧の中心は一致するにいたらず、半円筒体10の内面が巻込部5上をスライドする(すなわち半円筒体10の中心は刻々変化する)だけである。第三段階すなわち内枠の運動が実質上ほとんど終了したとみられる最終の段階においてようやく巻込部5と半円筒体10とは部分欠落軸体と部分欠落軸受との関係になり、両者は同心上に係合される(なお、閉蓋時の回動は以上の順序と逆の順序によつてなされる。)。

してみると、イ号物件は本件特許発明にいう「軸体」を備えていないものといわなければならない。

もつとも、前記第三段階の最終時点における内枠の半円筒体10と外枠の巻込部との係合は同心状であることはこれを認めうるのであるが、この係合も、回転機構本来の機能を果しているわけではなく、むしろ、この係合関係はバネ11の下方向への弾撥力と相俟つて、内枠を外枠と九〇度の角度において懸合係止する(落下しないようにひつかける)機能を果しているにすぎないと解すべきである。

(2) のみならず、以上のような見解は見方を変えて次のようにいうことも可能である。すなわち、

(一) 本件特許発明の回動機構に関する構成要件をみると、それは「軸体によつて、内枠を回動自在に枢着」する構成をとつていることが明らかである。すなわち、本件特許発明の回動機構に関する技術思想は内枠を軸体によつて「枢着」するというものであり、ここに枢着とは、相対的な回転運動は保障されているが、終始互いに係合されているような二つの部材の相互関係をいつていると解するのがその字義に照らし相当である。

(二) しかるところ、イ号物件の内枠の半円筒体10と外枠の巻込部5との関係が右のような関係にないことは前記の説示で明らかである。

してみると、イ号物件は本件特許発明にいうような「枢着」関係にある部材を備えていないものと解することができる。

(3) これを要するに、イ号物件の内枠開閉機構は軸体(または回転軸)と軸受とからなる回動機構を採用しているものではなく、ただ内枠のリブと外枠の突縁部との形状に特段の工夫をこらし、これにバネを配する独得の構成によつたところに特徴があると解することができる。そして、このことにより、イ号物件の製造組立工程上、軸体、軸受およびその附属品の製造とこれを枢着するための組立工程を不要なものとし、その代りバネを配することを必要とし、また右のような独特の機構を採用しているがために、内枠の開閉が、通常の軸体と軸受による回動機構のように円滑にいかない等本件特許発明の実施によつて得られる効果とは別異の作用効果を示すものとなつていることが、その構造自体および疏明によつて一応認められる。

そして、以上の見解を本件特許発明の構成要件に則していうと、イ号物件は「……軸体によつて内枠を回動自在に枢着し………」という要件を欠いているということになる。

三 はたしてそうだとすれば、イ号物件は爾余の点について検討するまでもなく本件特許発明の技術的範囲に属するものではない。

4 そうすると、被申請人が業としてイ号物件を製造販売することはなんら申請人らの本件特許権、専用実施権を侵害するものではない。

したがつて、本件仮処分申請はその被保全権利を欠くものであり、また本件は事案に照らし被保全権利の疏明にかえて保証を立てさせてその申請を認容することは相当でない。

よつて、本件仮処分申請はこれを却下する。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

回動機構説明図

(一) 半パイプ状の軸体と軸受(理由説示第二3における<4>の回動機構)

<省略>

(二) イ号物件の内枠開閉運動機構の概略図(バネは省略)

<省略>

<省略>

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